村上龍著「愛と幻想のファシズム」より
「ただ、彼らの、彼らというのは西欧民主主義国家を言ってるのですが、彼らの、恐ろしさというのは、とてもわかりにくいのです、というのは、彼らは、ヒューマニズムを実践しているからです、恐怖を全面に押し出して来ないからですよ」
「アメリカが見えませんか?」
「ボンヤリしています」
「たぶんね、アメリカ人自身にもアメリカは見えないかも知れませんよ」
小説「愛と幻想のファシズム」は1983年〜84年にかけて書かれた。龍氏は同じ頃、「アメリカン★ドリーム」というエッセイを連載していて、一冊の本になっている。これは龍氏のアメリカに対する鋭く深く、ポップな洞察がびっしり詰まった、最高に濃くてエキサイティングな書物。この2つの本を合わせ技で読むと、アメリカ、世界統一的政治システム、その中の日本…といった関係性が浮かび上がってくる。小説の中の物語としての筋書きとは、別の何かが。
今は遠い過去の歴史となった東西冷戦真っ只中の時代に書かれた小説だが、今でも通用する世界観が散りばめられているし、今この時代だからこそ鮮烈に迫ってくる表現が多々ある。2019年以前に読んでいたらなかったかもしれないけど。