“rage"という英単語がある。名詞としては「激情、激怒、憤怒」、自動詞として「怒る、暴れる」という意味だ。これを知ったきっかけは、Tumblrで見かけた以下の引用だった。

Do not go gentle into that good night.
Rage, rage against the dying of the light.

 

パッと見てすぐに意味は理解できなかったが何か心を捉えられた感があった。“rage"という単語を初めて見たので調べたところ、意味は先述の通り。

これはウェールズの詩人ディラン・トーマス(Dylan Thomas) の詩の一部である。でもTumblrの投稿にはOscar Wildeって書いたあったような記憶がある。それで最近までずっとこの引用元をOscar Wildeだと思い込んでいたんだから。間違いだったんだなあれは。

それはさておき、今日この詩について少し文献を調べてみたら、この引用に対して今までの自分の解釈が若干ズレていたことがわかった。以下は引用元の詩全体である。

 

Do not go gentle into that good night,
Old age should burn and rage at close of day;
Rage, rage against the dying of the light.

Though wise men at their end know dark is right,
Because their words had forked no lightning they
Do not go gentle into that good night.

Good men, the last wave by, crying how bright
Their frail deeds might have danced in a green bay,
Rage, rage against the dying of the light.

Wild men who caught and sang the sun in flight,
And learn, too late, they grieved it on its way,
Do not go gentle into that good night.

Grave men, near death, who see with blinding sight
Blind eyes could blaze like meteors and be gay,
Rage, rage against the dying of the light.

And you, my father, there on the sad height,
Curse, bless me now with your fierce tears, I pray.
Do not go gentle into that good night.
Rage, rage against the dying of the light.

(Dylan Thomas, Do Not Go Gentle Into That Good Night)

 

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この詩は、ディランが死に瀕した父親へ向けて書いた詩である。(…というのはもちろん拾った情報)

詩を理解するのは難しい、言葉としての意味を理解するのと文脈を理解すること、さらにその裏に表現された暗喩を理解するのは別のことだ。しかも母国語以外で。

俺の英語力はお粗末なので、言葉の意味と文脈はどうにか掴めても、その奥の本質までは手が届きそうで届かない。しかしこの時点で今までの自分の解釈がズレていたことに気づいた。

俺はTumblrでこの引用を初めて目にしたとき、「大人しくなんかなるなよ、消えゆく灯りに激怒しろ、憤怒しろ」と文字通りの意味に捉えていた、作家がオスカー・ワイルドと思っていたせいもあり、今そこでまだエネルギーを保持して生きている人間が自分または他人をさらに奮い立たせる意図の言葉と解釈した。それで、何か心が「ザワザワッ」としたのである。そしてrageという単語を覚えたのである。

 

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話変わって数ヶ月後、村上龍の「ピアッシング」を英語翻訳版で読む機会があった。そしてそこでrageという単語に再会した。コールガールのChiakiが妄想に取り憑かれた男Kawashimaに客として出会い、ふとしたきっかけでrageな状態に至る。そのシーンで、先の引用を真っ先に思い出した。ピピピッときたよね。

その後また別の英文小説を読んだら、そこでも単語rageが登場してピピピッときた。言葉というものは、こういうプロセスを経て自分の内部に取り込まれていくのである。だからそのプロセスは、人の数だけバリエーションが存在する。

で、話は戻って俺の英語力ではこの詩の奥深い意味を捉えるのは無理めだったので日本語訳を探してみたところ、素晴らしい翻訳があった。全部載せるのはアレなので一部だけ引用させてもらうと。

 

あんな風に「おやすみ」なんて言ってさっさと諦めるなよ
もう若くなくたって,一日が人生が終わりそうなら,烈火のごとく怒り狂って,ギャアギャアそこで喚くんだ;
太陽の光が薄れて消えていっても,死にものぐるいで抵抗しなきゃ

Do Not Go Gentle Into That Night ディラン・トーマス (Dylan Thomas) より

 

全文はリンク先で読んでもらうとして、訳者ご本人が認めているようにかなり意訳色が強い翻訳である。しかし素晴らしい、最高だ。気持ちがストレートに伝わってくる。そしてこのリンク記事が2020年の大晦日に投稿され、「暗いニュースばかりが目立ったこの一年ですが,最後をこの力強い詩で締めくくりたい」と記されていることにもグッときた。泣けてくるぜ…

他の訳も発見したが、同じ原文がこうも異なる訳になるのかと驚く。どれが正しいということではないのだが、自分はやはり上のが一番だな。

 

Do Not Go Gentle Into That Night (正当古典派訳)
atheistの意味は? – Do not go gentle into that good night (中庸派的訳)

 

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話はあちこちに逸脱したが、この記事ではrageという単語がどのような経緯で自分に取り込まれたのかを書きたかったのである。何故書きたかったのか?まぁこうやって頭を整理しつつ記事を書くのも、一種のアンガー・マネジメントなのかもしれない。

中指1000本突き立てても気が済まないくらいrageな日々を送っているが、整理して調べていく過程で先ほどの素晴らしい翻訳に出会うことができた。これは幸運の極みだよ、力強く美しい言葉は、人間に偉大な力を与えてくれるんだから。


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